「この靴速いんだよ!」について考える
こんにちは!
今回は「この靴速いんだよ!」について考える回です🤔
夏休みが明け、どうやらお靴を新調してもらった子がも多いようで
子どもたちはところどころで「この靴速いんだよ!!」という声を掛けてくれます
なんだかほほえましいなあと思っているうちに、だんだんと
「その靴速いのか…!」
「その靴も速いのか…!!」
と、だんだん面白くなってきて
「子どもの”靴速い論”を本質的に聞けるようになりたい」
と思って色々調べていたら日付を越えそうになっていた今日このごろです
思いのほか長くなってしまったので、ブログのついでではなく一本の記事にしてみました
後半には幼児期の靴選びのポイントも記載しましたので、ぜひ参考にしてみてください👟
「この靴、速いんだよ!」を真面目に考える
「この靴、速いんだよ!」
自分の履いている靴を指して、目を輝かせた子どもは自信満々に先生や友だちにそう伝えてくれます。
これはどこまで本当でしょうか。
今回は靴についてちょっと考えてみました。
▶「速い靴」の仕組みとは
●軽さ
足もとに乗る質量は、そのまま身体の酸素の必要量に直結します。
古典的な知見では、片足100gの増減で体内の必要酸素量が約1%変わるそうです。
近年の研究でもこの経験則は繰り返し確認されています。
●プレート×高反発フォーム×ロッカー形状
カーボン(等)プレートの“しなり”、高反発・低密度フォームの“戻り”、前後に転がるロッカー形状の“前に倒す力”
「Vaporfly 4%」(有名なナイキのヴェイパーフライですね)系の先駆研究では、こういった外的要因でランニング経済性を平均4%ほど改善したと報告されています。
経済性が良くなれば、同じ力で速く(または楽に)走れるということです。
※ランニング経済性(ランニングエコノミー)…同じ速度で走る際に、いかに少ないエネルギー(酸素摂取量)で走れるかを示す指標
●グリップ(路面適合)
“路面を噛む”能力はスタートもコーナーも押し出しも左右します。
歴史上でも、スパイクやスタッドの発明・改良は、競技全体の戦い方を変えてきました。
1936年ベルリンでジェシー・オーエンスがダスラー兄弟(のちのadidas)製スパイクを履いた逸話は、靴が勝負に与える影響を象徴するエピソードとして靴の歴史に語り継がれています。
▶「靴が生んだ」歴史の実例
●1960 ローマ:アベベ・ビキラ選手、裸足でオリンピック・マラソン世界新記録の樹立。足裏そのものの“軽さ”と接地感で走り切ったことを象徴しますね。
●1964 東京:アベベ・ビキラ選手が今度はシューズを着用して再び世界新記録を更新。東京ではPUMAを履いて、タイムを更新しました。
●ワッフルソールの革命(1970s):ナイキがワッフル型アウトソールを生み、軽さと路面グリップの新時代へ突入します。
●スーパーシューズの時代(2017〜):厚底×弾むフォーム×プレートでロード記録が続出します。2023年、シカゴでケルビン・キプタム選手が男子マラソン世界記録(2:00:35)、ベルリンでティギスト・アセファ選手が女子世界記録(2:11:53)。いずれも最新鋭モデルの靴を着用しています。(それぞれナイキ アルファフライ 3、アディゼロ アディオス プロ エヴォ 1)
●規制も動いている:World Athleticsはロードの最大スタック(“厚さ”)を40mmに、トラックは2024年11月から一律20mmにスパイク規制の改定を行っています。技術進化と競技の「公正」を両立させるための線引きとも言えますね。
▶ 「速い靴」の研究では
●“平均すれば効く”。しかし、個人差は大きい。
前述の4%改善(経済性)は“平均”の話になります。
個々の反応は1〜4%超までバラつきます。
競合各社の厚底×プレートでもアマチュアを含め幅広く恩恵が出る可能性が示唆されつつ、効果“ほぼゼロ”の人もいるとのこと。
身体と靴の相性とも言えますね。
●タイム短縮の実測
スーパーシューズの研究では、3000mで約2.4%短縮といった結果もあるそうで。
フルでも“数%”級の時短が起き得ますが、やはり個体差は残るそうです。
●プラシーボも無視できない
「効くはず」という思い込みが走りを押す可能性も。
“スーパーシューズはスーパー・プラシーボ?”と論じる論考も出ています。
気分のブーストと物理のブーストのどちらもという考え方もありますね。
●ケガとの関係は“仮説段階”
剛性や厚さの変化はアキレス腱や中足部の負荷を変える可能性がある一方で、「先進シューズで有害因子がむしろ減る」示唆も出されています。
結論はまだ揺れている。慣らしは慎重に。
▶「この靴、速いんだよ!」は成立するのか
結論から言うと、どうやら成立しそうです。
●ロード長距離なら、1〜3%前後の時短は“起こりうる現実的レンジ”に収まる。
3時間30分のランナーなら約2〜6分の短縮に相当します。
個体差は大きいが、軽さ+弾性+ロッカーの総合性は、もはや競技環境の“前提”になっています。
歴史の教え:ビキラの裸足と“東京のシューズ”、オーエンスのスパイク、ボウワーマンのワッフル。
速さは「人×道具×状況」の積のようです。
靴は答えの一部ですが、全部ではないことは子どもにも伝えたいですね。
▶子どもの靴選びは「足の発達」に直結する
「良い靴は速くする」以前に、子どもの靴は“育てる”道具だと考えたいです。
幼児の足は骨化が途中で、土踏まず(内側縦アーチ)や足の指の巧緻性、ふくらはぎ〜足底の筋群が育っていく真っ最中です。
ここで足に合っていない靴を続けると、走る・跳ぶ・止まるの“基礎体力”だけでなく、姿勢や転倒リスクにも影響が出やすくなります。
逆に、発達に合った靴は「遊び=トレーニング」を底上げしてくれる道具となります。
靴は決して主役ではないけれど、良い補助輪にはなりえます。
▶子どもの”足に合っている”靴の判断材料
●インソール上でサイズの確認:つま先10–15mmの余白
●甲の圧迫がない:マジックテープ・紐で調整しても痛くない
●屈曲点があるか:手で曲げて前足部で曲がるか
●くるぶしの浮きがないか:片足立ち・軽いジャンプで踵が大きく浮かない
●歩く・走る・スキップ:動きで擦れや当たりがないか、フォームが崩れないか
●親指の向き:真正面に伸びているか、内側に押されていないか
▶ 子どものあしに”固定できる靴”を選ぶ
外ではスリッポンなどの”楽に履ける靴”よりしっかりと“固定できる靴”を推奨したいです。
外遊び・登下園・公園など動きが大きい場面では、足をしっかり固定できる靴が基本です。
理由はシンプルで、安全(脱げ・転倒の抑制)/機能(蹴り出しの力をロスなく路面へ)/学習(同じフィットで動作学習が安定)、この3点が重要です。
つっかけ歩きは大人でもフォームが崩れます。
子どもなら、なおさらですね。
身体の成長のために”足の固定”は重要な要素と言えます。
●ベルクロ(マジックテープ)2〜3本:甲〜足首を「面」で押さえられて、着脱が速いです。園児〜低学年の本命ですね。
●靴ひも:フィットの微調整幅は最も優れているとも言えます。結び目は足背の中央よりやや外側に寄せると当たりにくいと言われます。
●ダイヤル式:均一に締めやすい特徴がありますが、砂・泥の目詰まりに注意しましょう。
▶ヒール(かかと)と甲でも“固定”する
かかとカウンターは“柔らかすぎない”、つまんで潰れきらない程度。
ここが決まると、足指が自由になります。
●フィッティングの手順:
かかとをトントンして奥まで入れる
下→上の順で締める(甲→足首)
最後に片手がうっすら入る程度まで微調整(きつ過ぎもよくない)
▶今回のまとめ
「この靴、速いんだよ!」という言葉は、単なる気分の高揚だけではありません。
靴の軽さや屈曲点、グリップ、反発性といった物理的な要素が確かに走りを助ける一方で、本人の「いける」という思い込みや高揚感といった心理的な効果(プラシーボ)も相まって、子どものパフォーマンスを後押しします。
両方がそろうことで、「走れる」「もっと遊べる」という実感が強まり、経験として積み重なっていきます。
だからこそ、靴選びは子育ての大切な要素といえます。
適切なサイズや屈曲点、かかとのホールド、そして外遊びでは必ず足を固定できる留め具のある靴を選ぶことが、子どもの足の発達を支え、安全に思いきり遊ぶための基盤となります。
靴を選ぶ時間や、履き方・片付け方を親子で確認することは、生活習慣や自立心を育むきっかけにもなります。
靴は物理的にも心理的にも子どもを速く、たくましくします。
日々の靴選びを大切にし、良い習慣とともにお子さまの成長を支えていただければ幸いです。